フィロロゴス

 以下はまったき暗闇のなかで交わされた会話である。しかし一体それはどこであるか、現実の場であるか否か、夢なのか内的真実であるのか、あるいは記憶そのものの現象化とでもいったものであるか。彼らは服を着ているか、いかなる服であるかあるいは裸ででもあったろうか、こうしたことは、すべて自由な想像にゆだねられる。
 ただし、この場がまったき暗闇でありしかもお互いの姿が見えるかどうかといった程度の光しかないほどの暗闇であること、これだけは真実である。

 クラウドは膝を立てて座っており、セフィロスはその前に立っている。

クラウド:おれ夢をみたのかもしれない。
セフィロス:どんな?
クラウド:人間に生まれた夢。
セフィロス(首をかたむける。やさしく、大変静かに)
クラウド(セフィロスを見上げる)あんたもいた。
セフィロス:それは興味ぶかい。(クラウドの横に座る)
クラウド:おれ田舎の村に生まれるんだ。
セフィロス:それで?
クラウド:でっかくなって、村を出た。で、あんたに会った。
セフィロス:おれはなにをしていた?
クラウド:兵士。
セフィロス:ああ神よ。(天をあおぐ)
クラウド:おれも兵士になったよ。
セフィロス:(心配そうにクラウドの顔をのぞきこむ)
クラウド:あんた覚えてないの?
セフィロス:もう少しおまえの話を続けてくれ。
クラウド:あんたに会ったよ、おれ。
セフィロス:おれはなにをしていた?
クラウド:おれのことじっと見た。で、云ったんだ。ずいぶんきれいな子がいるって。
セフィロス:おまえはきっと怒ったろうな。
クラウド:ううん。怒んなかった。あんただから。
セフィロス:それからなにをした?
クラウド:あんたが云ったんだ。名前はって。
セフィロス:そして?
クラウド:おれは答えた。
セフィロス:おれの反応は?
クラウド:おれの名前ぶつぶつ云ったよ。で、なんか思い出そうとしてるみたいだった。
セフィロス:そのおれはおまえを忘れていたのだろうか? ばち当たりなやつだ。
クラウド:おれも忘れてたよ、あんたのこと。
セフィロス:つらい身の上だ、お互いに。
クラウド:まあ、ちょっとね。

沈黙、間。

クラウド:続き聞きたい?
セフィロス:あるのか?
クラウド:あんた覚えてるだろ?
セフィロス:おれはおまえの話が聞きたい。
クラウド:あんたおれにいろんなこと云った。
セフィロス:おまえは耳で聞いたことは忘れない子だから。記憶をたとえなくしても。
クラウド:うん。あんたは一度見たものは忘れないしね。だからあんたの目にとまるには、ちょっとびっくりするくらい印象に残んなきゃ。
セフィロス:そこでおまえは美しい子になった。
クラウド:それであんたは言葉の人になった。
セフィロス:言葉と思索と思想と。だがこんなものがなんだろう? 世界の謎めいたあり方の前には、そしておまえの存在の前には。開闢のときには言葉があった。そしておまえが生まれたとき、言葉はおのれの無力を痛感し恥じ入って、引きさがった。(立ち上がり、奥へ歩いていって、止まる)
クラウド:それでおれはひとりぼっちになる。
セフィロス:あわれな身の上だ、お互いに。
クラウド:おれひとりはやだな。
セフィロス:(クラウドの横にもどってきて、座る)
クラウド:うん。
セフィロス:それからの話を。
クラウド:おれどこまで話した?
セフィロス:おれがいろいろ話したと。
クラウド:いろいろ話した。みんな覚えてる。でもあんたがおれのことひとりにした。おれはあんたのこと探した。それから見つけて、おれは罰としてあんたを……
セフィロス:(身ぶるいする)そこは省略しないか。
クラウド:してもいいけど、あんたが訊いたんだよ。
セフィロス:(立てた膝に腕をおいて頬をのせ、クラウドを見つめる)
クラウド:(セフィロスを見る)おれひとりじゃなくなった。おしまい。これ夢? それともあんたなんかした?
セフィロス:(微笑む。あいかわらずクラウドを見つめる)
クラウド:今度はあんたがなんか話してよ。

光がゆっくりと消え、闇につつまれる。