本当は夢中だけれどでも

 本当は夢中だけれどでも、云うべきじゃないという気がしている。実は、あのばかでかい頑丈な身体が好きだということを。つまり、セックスが好きだということを。もちろんお互いに楽しんでやっているのだ。一方的なのはごめんだ。セフィロスは身体がでかいし力も強いけれども、だからといって無理強いをしていいわけではない。そんなことをしようものならビンタを張って、別れようと思っている。そういうひとではないけれど。
 身体の中で、セフィロスのものがゆるゆる動く感覚が好きなのだ。実はとても。ゆるゆるのあとに来る深いやつもいいけれど、とにかくそのあいだ、あの身体に触るのが好きだ。鍛えられた筋肉、汗ばんだ皮膚の感じ。あちこちにまつわりついてくる髪の毛。なぜこれを本人が邪魔だと思わないのか不思議だ。好きだからいいけれど、正直うっとうしいんじゃないだろうか。
 なぜ夢中なのを云わないのかというと、そういうことを云うと相手が調子にのるし、自分が変態みたいに思えてくるからだ。いつから男の身体に欲情するようになってしまったのだろう。ましてや、さわりたいなどと。
「おまえ、笑っているだろう」
「え?」
 ふいに話しかけられて意識が戻る。行為の最中に別のことを考えていた、というのは状況として少々まずいのだろうか、たぶんそうだろう。間の抜けた返事が、はっきりと心ここにあらずだったことをあかししている。セフィロスはため息をついた。
「いま笑っていた」
「そうかな?」
 笑っていた自覚はないのだが。
「笑ってないよ」
「いや、笑っていた」
 セフィロスはしつこい。もともと淡白な性格のはずだが、なぜそんなにこだわるのだろう。プライドに傷がついたのだろうか。よりによって真っ最中に、ほかのことを考える余裕を与えてしまったということに。
「幸せで笑ったんですー」
 と云ってごまかしてみる。セフィロスはどうでたらいいのかわからなくなったようだ。まあ、それほどひどい嘘でもない。
 それほどひどい嘘じゃない。決して。いまこの瞬間が、笑えるほどに幸せだという点については。