誕生日の贈り物はなにがいいかと訊かれて

 誕生日の贈り物はなにがいいかと訊かれて、指輪、と云ったら相手が真顔になったのであわてて訂正した。
「だいたい、訊くなよ、なにがいいかなんて」
「訊いたほうが早い。おまえの好みはよくわからないから」
「現実的だなあ」
 クラウドはため息をついて、ソファの上に横たわるでかい身体めがけて這い登った。もたもたしていると、筋肉質の腕に掴まれて、具合のいい位置に収まった。
「指輪でもいいが、ほんとうになにがいいんだ」
「ケーキ。ホールごと食うのに挑戦したいから、丸いの買って」
「でかいやつか」
「大きさは任せるよ。あと、高いのじゃなくていいから。高いの出されてもわかんないし。おれへの愛がそれだけじゃおさまらないんだったら、持ってるマテリアなんか一個ちょうだい」
「おまえも現実的なやつだと思うが」
「そうかなあ。おれあんたになんか買ってもらうより、あんたのものわけてもらったほうがうれしいんだよね、実は」
「下着でもやろうか」
 からかい気味に云われて想像でもぞっとする。このひとの身体は好きだけれど、下着まで集めるほど重症のマニアではない。
「いらないよ、そんなの」
「そうか」
 セフィロスが眠たげな目をしている。こういうときは機嫌がいい。たぶん、素直にものをねだったからだ。彼はひとに与えたいタイプだ。実は。頼られたりやってあげたりするのが実はうれしい。うそみたいだが。そのへんを偶像崇拝連中はみんな誤解しているので、いろいろ与えようとしてくるのだ。自分の愛、身体、いろいろ。そういうものでは、セフィロスは窒息してしまう。冷たくあしらわれるくらいのほうが、このひとはうれしい。そういうことを滅多にされないから。普通にわがままを云われたりねだられたり、たぶんこのひとはちょっと手がかかるひとのほうが好きだ。自分の意志を持っているひと。自分との差異を楽しめるから。
 だからクラウドは自己主張を惜しまない。はめを外さない程度にものをねだる。くっつきたいときは素直にだっこしろと云う。歩きたくないくらい疲れているときはおんぶしろと云う。誰だって、本当は与えられるより与えるほうがうれしい。自分が誰かのためになっているほうがうれしい。自分の存在が、誰かを満たすこと。自分の主張が、誰かにあたって、吸いこまれること。固く跳ね返されるのではなくて。クラウド自身もそれを、最近知った。
「あと、当日宅配ピザしたい。クラッカーぱーんてして、げだげだ笑うんだ。あんたパーティーの用意できる? してよ。ふたりだから、別に凝ってなくていいけど。頭に三角帽子乗せようよ。おれ三角帽子かぶりたい」
「わかった、考えておく」
 セフィロスは半分以上意味がわからなかったのではないかと思うけれど、ホームパーティーのしきたりと定番くらい知っておくべきだ。一度は、ベタなパーティーをやってみるのがいい。練習だから、ひとは呼ばないほうがいいだろう。

 誕生日には、うそのように本物のホームパーティーが用意されていた。クラウドは笑い転げた。彼はホールケーキを、ほんとうにひとりで半分食べ、マテリアを保管している箱から、どれかひとつ選んでもいいと云われた。なにが向いているかでひとくさり議論をやったあと、だいちのやつをもらった。なんとなくセフィロスらしかったからだ。彼はそれを実際に使うことはしなかった。ただ、毎日持ち歩いて、それだけだった。クラウドは満足だった。自分にも、そして自分の相手にも。